☆はじめに
◎令和2年度厚生労働省委託事業で、全国労働基準関係団体連合会(全基連)が、労働判例・政策セミナーを全国で開催しています。
◎福岡県では、令和2年8月27日(木)13時30分~16時30分、福岡県中小企業振興センターで開催されました。 講師として、九州大学のY先生が、判例の背景や理論、実務としての裁判官の考え方を丁寧に話してくれました。
◎内容としては、
1.最新の労働判例の動向(定額残業代、定額総賃金制度と割増賃金規制、契約更新限度・不更新条項に基づく雇止めと無期転換、ポストリーマンの裁判例から知るポストコロナの危機対応)
2.最新の労働政策の動向(労働基準法の一部を改正する法律、雇用保険等の一部を改正する法律、生活を支えるための支援のご案内、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律、雇用調整助成金の拡充と新たな個人給付制度の創設について)などでした。
☆定額残業代の割増賃金該当性の要件 (日本ケミカル事件)
◎原告Xは、調剤薬局の薬剤師で雇用契約には、「月額562500円(残業手当含む)」 給与明細書表示は「月額給与461500円業務手当101000円」と記載されていた。
◎調剤薬局の賃金規定にも、業務手当は、「一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなす」となっている。
◎判決では、業務手当について、雇用契約書、採用条件確認書、賃金規定において時間外労働の対価として支払う旨が記載され、なおかつ、X以外の従業員との間の確認書にも記載されていたのであるから、Xの時間外労働等に対する賃金の支払いとみることができる。
◎本件の時間外労働を計算すると約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当し、業務手当の範囲以内であるとみとめられると判断している。
◎この判決から、原告Xに対して、業務手当が定額残業代であるという認識が必要で、雇用契約書や採用条件確認書、賃金規定などで整備されていない場合は、時間外労働とみなすことができないという結論になります。
☆月80時間の時間外労働に対する固定残業代の有効性(イクヌーザ事件)
◎原告Xは、アクセサリー等を販売する販売員であった。
◎就業規則に基づき定められた賃金規定において、基本月額と時間外月額に分けられ、基本月額は所定労働時間に対する賃金、時間外月額は所定労働時間を超えて勤務する見込時間に対する賃金とすること、見込時間及び対応する金額は雇用契約書及び労働条件通知書等により個別に通知すること、同時間を超えて勤務した場合は、別途割増賃金を支給することが定められている。
◎本件雇用契約書には、基本給額(23万円)のほか、基本給のうち一定額(8万8000円)が月間80時間の時間外勤務に対する割増賃金となる旨記載されていた。
◎80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である。
◎基準法上の月に45時間の原則についても合意がされたことを基礎づける事情は見当たらない。
◎ゆえに、本件固定残業代の定め全体を無効とするという判決になっています。
☆判例を理解することで、リスク管理をしっかり行うことが大切な時代です。
◎近年、労使間の紛争が増加しています。
◎紛争が絶えない時代といっても過言ではないと思います。
◎労働法制を知らないで、ブラック企業で就労していた若者などが被害を受けていますが、その若者が公的機関などで相談を行い、紛争のあっ旋や調停、労働審判、裁判などの問題解決行為を行っています。
◎法テラス制度や少額裁判制度など以前より紛争解決の手段が抵抗なく行えるようになっています。
◎法令遵守社会で、労働法の知識不足による被害や損害が多くなってきています。
◎リスクを管理し、被害や損害を減らしていくためにも、裁判判例などをよく読み、最終的な紛争解決手段を熟知しておくことです。
◎そういう紛争になる前に、専門家に依頼し、日ごろから労働社会保険諸法令に関する紛争予防措置を講じておくことが大切なのかもしれません。
◎紛争を起こさないようにするためには、労使の間での「受容と共感」を深めておくことです。そのためには専門家による相談が有効です。
◎セルフキャリアドッグなどを導入して、コミュニケーションを図っていく機会を作っていくことが、何より大切な時代です。